2011/02/24

生活臭が明日への活力になる - [書評] - 東京トイボックス/大東京トイボックス


いまイチオシの漫画『東京トイボックス』と『大東京トイボックス』。

東京トイボックス』は全2巻で完結。
その続編の『大東京トイボックス』で現在も連載中だ。

漫画と侮るなかれ。
日々仕事に勤しむ社会人の方々に手にとってもらいたい、そんな漫画だ。

この漫画は登場人物たちの毎日の仕事を描いている。
そしてこの漫画の登場人物にスーパーな人間はいない。平凡な人間たちなのだ。

主人公はパチスロムービーで食いつなぐ中小ゲーム開発会社のディレクター。
その会社にはプログラマチームとグラフィックチームとがあり、パブリッシャーと呼ばれる会社の人間がもってくる案件を日々こなしている。

その描写があまりに生々しいのでググってみたが、どうやらかなり実態に近い描写のようだ。

このリアリティがたまらない。
登場人物は、それぞれの立場でそれぞれが考え、動き、仕事を進めていく。

妥協もする。

それゆえ理想と現実、そのギャップに苦しむ。
なぜ作りたいものが作れない。
同人はルーズだと言われないよう納期は必ず守った。
きちんと利益もだしてきた。
なのになぜだ。

これは主人公の会社と共同開発することになった同人あがりのやり手女社長の独白だ。
彼女はこの独白の数時間前に社員にこう告げている。
我々の目的はこのタイトルで力をつけデベロップだけでなくパブリッシュもできるゲーム会社になることだ。
そして同人だ商業だというくだらない垣根を取っ払い、面白いものは面白いというシンプルなルールが通用するシステムを作る。

明日12時に削除に伴う各種作業を指示する。
本日は全員定時退社。明日以降に備えてくれ。

安心しろ

こんな程度の修正でつまらなくなるほどウチのゲームは脆弱じゃない。
実に堂々とリーダとして部下たちを激励している。
この気丈な彼女もまた、理想と現実のギャップに苦しんでいるひとりなのだ。


これほどまでに彼女を打ちのめす修正とはいったいなんなのか。
これこそが『大東京トイボックス』の主題のひとつなのだが、この主題は読み進めるうちに明らかになってくるものであり、この漫画の大きな楽しみでもあるので、ここでは明記せずにそれを暗喩する詩のみを最後に載せておく。

余談だが、作中にiPhone, Twitterが登場したのは私の知る限りこの漫画が最初だ。
最近はどの漫画のキャラクタもiPhoneを使っていてやや辟易しているのだが、いちiPhone, Twitterフリークとして当時はやはり嬉しかった。
作者のうめさんご自身も @ume_nanminchamp というアカウントでTwitterをされていて、Web上でも積極的に活動されている。
ちなみに作中に登場するタイムラインのアカウントは、うめさんご自身がTwitter上でアイコンを使用させてくれる方を募集し、使用許可を得た実在するアカウントだ。

余談が長くなった。
いろいろ書いたが絵も綺麗でテンポもいい、
いまイチオシの漫画なのでぜひ手にとって読んでもらいたい。

作・マルティン・ニーメラー

彼らが最初共産主義者を攻撃したとき

私は声をあげなかった

私は共産主義者ではなかったから


彼らが労働組合員たちを攻撃したとき

私は声をあげなかった

私は労働組合員ではなかったから


彼らがユダヤ人たちを連れて行ったとき

私は声をあげなかった

私はユダヤ人などではなかったから


彼らはついに教会を攻撃した

私は牧師だったから行動した

しかしそれは遅すぎた

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