難病を患った20代女性のエッセイ。主題はセーフティネットの話です。
セーフティネットといえば現在まさしく某芸人さんのご家族の不正受給が世間を賑わしております。
私もいつだったか、ニートへと華麗に変身するにあたり、ひょっとしたらいずれ自分も生活保護のお世話になるかもしれぬ、と受給の手続きを調べたところ、親族(範囲は忘れた)に資産がある場合受給要件を満たさない旨の記載を見つけ、父オヤジが一所懸命働いて得た資産を食い潰し、現役で働く弟の収入を食い潰し、してからでないと国からの保護は受けられないのか、と傷ついたことがあります。慰謝料( ゚д゚)クレ
今回の某芸人さんの騒動では、この要件の是非が論点になるのかなと思い眺めていたところ、論点としてとりあげていたブログは散見されたものの、実際の政治の方はこの要件は是であることを前提としたうえで、手続きの厳格化の方向に進むようで非常に残念です。というかやめてくれ。
この手のルールを定める場合というのは、完璧な運用など望めないという前提にたったうえで
- 生活保護を必要としない人が受け取ってしまう可能性があるルール
- 生活保護を必要としている人が受け取れない可能性があるルール
のどちらに倒すかを議論すべきと思うのですが、議論などまるでせずに後者が当然の既定路線となったうえで、手続きばかりが増えていく我が国ニッポン\(^o^)/
手続きが増えると支給は遅くなるわ、公務員のお仕事増えるわでいいことなしだと思います。はい。
さて、本題の書評
「難病」「セーフティネット」と重いキーワードを並べたうえに生活保護問題なども書いてしまい、重苦しい雰囲気にしてしまいましたが、非常にコミカルな内容です(やや語弊がありますけども)。
著者の大野さんは大変に笑いのセンスをお持ちのようで、喫茶店のような人目につく場所で「困ってるひと」などというタイトルの本を読みながら、クックックッと何度も笑ってしまい周囲の方々にひとでなしな印象を与えてしまいました。大野さん慰謝料( ゚д゚)クレ
内容は大野さんの半生でして、難病を発病されてるわけですから愉快な話では決してないのですけども、症状や生活の困難さなども、その卓越な表現力によって仔細に記述されておりまして決して笑ってばかりはいられないのですけども、前書きのタイトルである「絶望は、しない」という思いを行間からビシバシと感じさせられ、笑わさせられ、考えさせられ、感情の起伏の激しい非常に充実した時間を本書は与えてくれました。
以下、目次です。(本当はまるっと「はじめに」を写経した方が内容を想像しやすいんですけども。)
はじめに絶望は、しないわたし、難病女子
第一章わたし、何の難病?難民研究女子、医療難民となる
第二章わたし、ビルマ女子ムーミン少女、激戦地のムーミン谷へ
第三章わたし、入院する医療難民、オアシスへ辿り着く
第四章わたし、壊れる難病女子、生き検査地獄へ落ちる
第五章わたし、絶叫する難病女子、この世の、最果てへ
第六章わたし、瀕死ですうら若き女子、ご危篤となる
第七章わたし、シバかれる難病ビギナー、大難病リーグ養成ギプス学校入学
第八章わたし、死にたい「難」の「当事者」となる
第九章わたし、流出するおしり大虐事件
第十章わたし、溺れる「制度」のマリアナ海溝へ
第十一章わたし、マジ難民難民研究女子、援助の「ワナ」にはまる
第十二章わたし、生きたい(かも)難病のソナタ
第十三章わたし、引っ越す難病史上最大の作戦
第十四章わたし、書類です難病難民女子、ペーパー移住する
第十五章わたし、家出する難民、シャバに出る
最終章わたし、はじまる難病女子の、バースデイ
いい本ですよ。これは本当にいい本です。
最後に
冒頭になぜ生活保護の話をもってきたかなのですが、著者の大野さん自身がですね、友人の善意に頼りきったあげくに友人を失うという失敗を経て、人を頼ると頼られた人には重荷になる「頼るべきは仕組みだ!制度だ!」と書かれているからなのです。(この表現は私の意訳です。彼女はもっと上手に表現されています。)
そして彼女の直面したさまざまな現実を拝見しますと、我が国のセーフティネットは大変に未成熟でして、求めるべき救済制度があったとしても、それを発見するのに一苦労、制度の適用を受けるために手続きをとるのにまた一苦労という実態のようです。
今流行の言葉で言いますとユーザビリティが低いという表現になりますか。
積み重なった制度と手続きに縦割り行政の弊害がもろにマッチして、もはや誰も全貌を把握しきれないスパゲッティ状態になっているようでございます。
本書から彼女は非常に頭のいい女性だという印象を受けました。主題であるセーフティネットもさることながら、その彼女から発せられる、ビルマへの熱い思いや、主治医への感謝と信頼と不満が入り混じった感情、病気の辛さ、将来への不安、その他様々な感情を乗せた生の言葉をぜひ多くの方にご一読いただきたいと思う次第です。